第81章 物狂い※
「そろそろ限界じゃない?」
男はそう言いながら、頬に触れた。
その微弱な感覚だけでも、達してしまいそうで。
「・・・っや、ぁ・・・」
それは快楽・・・の、はずなのに。
何故こんなにも、拒絶しているんだろう。
そんな単純な答えすら出てこない。
「とっくに十回は超えてるよ。これ以上は本当に使い物にならなくなる。・・・まあ、これで薬が切れた時にどうなるのかも、気になるとこではあるけど」
薬・・・。
・・・そうか、私は薬のせいでこうなっているのか。
「まだ意識がありそうな内に聞いておこうか」
男はそう言いながら、一度腟内に埋まる玩具の動きを止めた。
その直後、快楽を失った体は暴走するようにうねり始めて。
求めようとする体と、何故かそれに反発する脳内で矛盾が起こり、今にも何かが破裂してしまいそうだった。
「君の彼、本当は・・・・・・」
隣にしゃがみ込み、耳元で囁く男のその声でさえもおかしくなる。
触れるもの、聞こえるもの、全てがおかしな程に快楽へと変わってしまう。
話の内容なんて入ってきていない。
それでも男は言葉を続けようとした・・・その瞬間だった。
「・・・っ・・・!?」
鼓膜を突き破るように聞こえた大きな破裂音が、部屋中に響き渡った。
・・・この音を、私は聞いたことがある。
それは一度だけでは無い。
この何かが焼けるような匂いと、独特な破裂音。
拳銃の発砲音だ。
「動くな!」
部屋の入口の方から、別の男の人の声がして。
・・・この人の声にも、聞き覚えがある。
確か、この人は・・・。
「・・・やっぱり、そうなんだ」
私に話しかけていた男は徐ろに立ち上がると、発砲した男性の方へと体を向けて。
「黙って彼女から距離を取れ。妙な真似をすれば撃つぞ」
霞む視界の中、入口の方へと目を向けると、そこには拳銃を構え、ガスマスクにも似たマスクを付けたスーツ姿の男性の姿があった。
命令された男は黙ってそれに従い、私からゆっくり距離を取って。
「まさか、本当に警察官だったとはね!」
そう声を張り上げたかと思うと、男はジャケットの内側から素早く拳銃を取り出した。
構えるまではほんの数秒。
気付いた時には、二度目の発砲音が聞こえていた。