第81章 物狂い※
口の端からは唾液が溢れ、下唇を噛んでいようにも力が入らない。
欲しい。
もっと強い快楽が。
墜ちて、墜ちて、これ以上無い所まで、深く落としてほしい。
「どう?こっち側に来る気になった?」
さっきまであった冷静さも、段々と薄れていって。
零と薬の効果が切れるまで触れ合ったあの時と同じように、快楽のことだけしか考えられなくなってきていて。
「・・・・・・ッ」
誰でも。
誰でも良いから、触れて欲しい。
僅かでもそう思った自分が、悔しくてたまらない。
それでも、体が疼いて仕方がない。
こんなことで。
こんなもので。
一度ならず、二度までも。
「っあぁ・・・ぁああ・・・ッ!!」
性懲りも無く。
迷惑な人間だ。
そう何度も罵りながら再び墜ちて。
「二回目。言っておくが、俺のものになると言うまで続けるからね」
なら、都合が良い。
そうしていれば、いつかは。
今、自ら命を絶つことができなくても、そうすれば。
いつかは朽ちることができるだろう。
零のものになったまま、消える事ができるのなら。
「っふ、あぁ・・・ッ」
何時になくマイナス思考なのは、薬のせいだと思いたい。
・・・こんな考え、零が聞いたらどんな顔をするだろうか。
そもそも、こんなにも学習能力の無い私を、まだ傍に置いてくれるのだろうか。
・・・冷静さは無くなっていたと思っていたのに。
彼の事となると、案外まだ思考は回るものなんだな、と思いながら、もう一度深く深く堕ちた。
「我慢強いのは良いと思うけど、壊れる前に返事をしてくれると助かるよ」
・・・とっくに壊れてる。
この男も、私も。
そう思いながら、何度も、何度も。
心の中だけで零の名前を叫びながら。
墜ちて、墜ちて、墜ちて。
そして次第に、息の仕方も分からなくなった。
目の前にいるのが誰なのかも。
何故、こうなっているのかも。
ただ求めているのは、もっと強い快楽。
そして、思考回路も殆ど停止し始めて。
さっきまで、誰かの名を呼んでいたような気がするけれど。
・・・思い出せない。
どんな名前だったのかも。
思い出せなくなった。
・・・それは、誰だったのか。