第81章 物狂い※
「・・・っ、ぁ・・・!」
男が触れたのは恐らく首筋にある赤い痕。
無数に付けられたそれらを繋いでいくように、ゆっくりと指を肌に這わせていった。
「我慢しなくていいよ。その方が俺も楽しいし」
別に喜ばせる為に出している訳では無い。
できることなら、反応一つだって見せたくないのに。
体は何も、言うことを聞いてはくれなかった。
「何、の・・・為に、こんな事・・・っ」
短い呼吸の中で絞り出すように問いかければ、男は僅かに目を丸くして、逆に何故そんなことを聞くのか、とでも言いたげな表情を向けた。
そしてその表情は、即座に変わって。
「楽しいからさ」
「・・・っ・・・!」
目だけは笑わない笑顔を作ると、男は私の体を軽く押して床へと転がした。
そこに力は殆ど無かっただろう。
けれど、抵抗力の無くなった体を倒すには十分過ぎる力だった。
・・・あのストーカー男に連れて行かれた時と、同じような状況。
ただ、冷たい床に這う甘い煙は、あの時とは段違いで濃いことが分かる。
「子猫ちゃんのこんな姿見たら、彼どんな顔するだろうね 」
「・・・・・・ッ!!」
男の手が、再び太腿へと伸びて。
下着をずらされたと気付いた時には、男の手に握られていた玩具が宛てがわれていた。
「っあぁ・・・ッ、い、ぁ・・・!!」
ゆっくり腟内に潜り込んでいったそれは、あっという間にその中へと収まって。
何かがそこにあるという違和感が気持ち悪くも、狂っている体はそれだけで墜ちてしまいそうだった。
「どう?僕の子猫ちゃんになる?そうすれば中和薬をあげないこともないよ」
男はその中和薬を既に口にしているのか。
だから平気で口移しで私に薬を飲ませたんだ。
・・・この男ならこんな狂った薬でも、好んで口にしていてもおかしくはないけど。
「なるくらい、なら・・・っ、ここで、舌を・・・噛みちぎって・・・死んで、やります・・・っ」
いつだってその覚悟くらいはある。
ただ、あるのは覚悟だけで、残念ながら今の私には実行することができない。
「それをさせない為に最初の部屋で、あの薬を使ったんだろう!」
高笑いしながら言い放つ男を、下から見上げるように睨んだ。
何もできない。
それが悔しくて、情けなくて。