第81章 物狂い※
「・・・ど、して・・・」
息苦しい。
それくらいに、既に煙は肺の中に充満していた。
なるべく吸い込まないように手で口を抑えてみるものの、殆ど意味なんて成していない。
きっと私が言いたい事も、もう伝わっているだろう。
それでも敢えて男に問い掛けた。
「あんな隙の無い男に女がいるなんて聞いたら、興味持つのは必然だろう?それに、奪ってみせたらどんな顔するか・・・面白そうじゃないか」
そうじゃない・・・それも気になる所ではあるが、今私が聞きたいのは。
「分かってるよ。・・・薬のことだろう?」
・・・やっぱり、苦手だ。
見透かされているんじゃない。
最初から分かっているのに、敢えて言わない。
その行為が怖くて、仕方がない。
「察しているだろうが、僕は売人だ。売人といっても、それは薬に限らないけどね」
口を抑えている私の手首を掴むと、そのまま冷たい壁へと勢いよく押し付けられて。
確かに、昨日零がこの男から買っていたのは、薬ではなく情報だった。
・・・恐らく人なんてものも、含まれるのだろう。
「この薬はまだ新しくてね、実験台が足りない。特に中毒性や副作用、人によっての効き目の違いなんてデータはまだまだ」
そして、そこに私が目をつけられた。
「元々、俺が君に使う予定ではあったんだ。でも良い駒が手に入ったからね」
それが、あのストーカー男・・・。
もうこの際、それらの情報をどこで手に入れたのかなんてどうでも良い。
それよりも、今この状況をどうすべきか考えなくては。
「逃げられないよ」
壁に私の手を押し付けたまま、男は鼻先が触れそうなところまで顔を近付けた。
「この体で何ができるんだい?」
・・・そんなこと分かってる。
だから考えているんじゃないか。
「今の内に僕のものになると言うなら、楽な内にここから出してあげるよ。自由になれる訳ではないけど」
言うものか。
それはこの男自身が一番よく分かっているだろうに。
そう言うように男を睨み付ければ、それは十分に男に伝わったようで。
怒りを湧き上がらせる笑みを深くしてみせた。