第81章 物狂い※
「俺さ、嘘かどうかを見極めるのは得意なんだよね」
そう言いながら男は徐ろに、近代的な扉へと足を進めていった。
このままここに居てはいけないのは分かっている。
でもどうすべきか分からない。
人質になるくらいなら死ぬ覚悟はできている。
でもそういうことをしようとしている雰囲気を感じられない。
「子猫ちゃん、面白いからやっぱり俺のものになりなよ」
・・・人質、というよりは誘拐か。
でも、零はこの男のことを知っている。
もしそうなっても、いつか彼が迎えに来てくれる、そんな妙な自信だけはあった。
「お断りします」
「だろうね!でも君の口から言わせてあげるよ」
扉の前に立つと、パネルを操作しながら声を張り上げて、そう言った。
・・・この男が握っているという、零の秘密というのが何か分かれば強く反論もできるのだけど。
「どうして私なんですか」
一番の疑問はそこだった。
零に恨みを持っているのか、攻撃を仕掛けたいのか・・・何をしたいのかも分からない。
「彼の完璧な顔を歪ませたい・・・というのが理由の一つだ」
操作していたパネルの色が変わり、ドアノブ代わりについているハンドルへと手を移しながら、男は答えた。
「あとは単純に、子猫ちゃんに興味があるからだよ」
・・・だから、その理由が分からない。
私に興味を持たれるものなんて何も・・・。
「面白い技術を持っているらしいじゃないか」
「!」
・・・もしかして、機械を弄る事について言っているのだろうか。
何故そんなこと、この男が知っているのか。
それにあんなもの、私でなくても少し弄っていれば・・・。
「本当は彼の仲間じゃないかと思って連れてきたんだけどね。そうでなくても、実験は面白そうだから」
「実験・・・?」
男は小さくこちらを振り返りながら口角を上げると、重厚な扉をゆっくり開いてみせた。
中からは煙のようなものが地面を這うように漏れ出し、あっという間に部屋を埋めていった。
「・・・ッ!!」
何故か体の方が一瞬で危険だと判断し、慌てて入ってきたドアへと引き返しては、ドアノブに手を掛け強く引いた。