第81章 物狂い※
「子猫ちゃん、こっち」
男は楽しそうに次の部屋へと誘導していくが、どうにもその子猫ちゃんと呼ばれるのが好きではない。
でもそれを、今言ったところでどうにもならないことは分かっているので、敢えて口にはしなかった。
誘導された先の部屋へと足を進めると、男は開いた扉を押さえたまま、中へと促す様に手を動かした。
「・・・・・・」
何も無い部屋。
あるのは、次の部屋へと繋がる扉だけ。
ただその扉は、普通ではないとすぐに分かる見た目をしていた。
金庫のようなハンドルがついており、その横にはコードを入力するようなパネル。
外観からは想像できないような、近代的な作りのものが既にそこにはあった。
「見たい?」
「・・・っ!!」
重厚そうな扉が閉まる音がした後、男は背後から私の肩に手を置いては、横から顔を出して。
驚きと気持ち悪さから慌てて距離を取って振り返ると、気味の悪い笑顔を浮かべた男が両手を広げていた。
「子猫ちゃんが見たいものだろう?」
・・・私が見たいもの?
「とぼけなくても良いよ」
何を、言っているんだろう。
まるで私が、この扉の先のものを探していたかのような口振りで。
「その為に昨日、彼と僕のところに来たんだろう?」
・・・そうか、私を彼の愛人の様なものではなく、何か探りに来た仲間とでも思っているのか。
ただそれがバーボンとしてなのか、降谷零としてなのか・・・分からない内は何も言えない。
昨日の彼は、安室透と呼べと言っていた。
それはどちらとも取れる彼だから。
降谷零として会いに行っていたとは到底思えないが・・・何も言えないなら。
「何を言っているのか分かりません」
正直に言うまで。
それがこの男に、伝わるかどうかは知らないが。
「そっか、本当にただの彼の女なんだね」
暫くの間があった後、男は私を舐め回すように見つめては、嘲笑う様にそう言い放った。
一応、男が何を言っているのか分からない事は伝わったようだが、それは別の問題を生んだようで。