第10章 恋して
「・・・っ、安室さん・・・!」
顔を包む手を剥がそうと手をかけるがビクともしない。それでも彼の手には優しく包まれていて。
「こうでもしないと話を聞いてくれそうにないので」
「き、聞いてます・・・!聞いてますから・・・手、・・・手を離してくださ、い・・・っ」
先程の自分の行動を後悔した。
心臓が動く度、全身に振動が伝わるようで。
「ダメです」
耳元でそう囁かれて、ビクッと反応する体。
同時に全身から力が抜けていく。
「や・・・!あむろ・・・さ・・・っ」
何故か涙が溢れてきて。
離してほしいと目で安室さんに懇願する。
「・・・それ、反則ですよ・・・」
それを聞き終わった頃には、唇に柔らかい感触を感じていて。
「ん・・・ぅ・・・!」
するっと安室さんの舌が口内に侵入してくる。無意識に私の顔を包む安室さんの手を強く掴んだ。
逃げても追いかけて、追いつかれては絡みつかれて。
息をすることも忘れてしまいそうな深いキスで。
「っは、あ・・・むろさっ・・・!」
キスの合間に彼の名前を呼ぶが、お構い無しに続けられて。口の端から溢れた唾液が伝う。
段々と意識を手放してしまいそうになって。閉じた目からは溜まっていた涙が頬を這った。
「・・・・・・っ・・・は・・・!」
長い長いキス。ようやく離された時には息切れがしていて。
何が何だか分からない。
思考回路が働かない。
「・・・っ、そんな顔しないでください」
そんな、とはどんな、なのか。
上手く働かない頭でぼんやり考えていると、苦しそうな表情で見つめられて。
何が起きたのか分からない。
頭がクラクラする。
「・・・あんなこと、誰にでも言わないというのは本当ですから」
彼の目もそう訴えていて。
息も落ち着いてきて、段々と冷静さを取り戻していく。その間も安室さんの手は私の顔を離さないままで。
「貴女のこと、大切に思っているんですよ」
言い聞かせるような声色で。
心臓が破裂してしまいそうなほど動いて。
呼吸が上手くできなくて。
「・・・うそ」
「嘘ではありません」
じゃあその言葉の真意は。
私みたいな勘違いしやすい女にそういうこと言うと、本当に勘違いされますよ、なんて心の中で弄(ひねく)れた。