第10章 恋して
「もう一度キスしたら信じてくれますか?」
そういう安室さんの顔は意地悪な悪戯子の笑顔のようで。
「・・・っ!」
そんな顔で、そんな声で、そんな事を言われると、本当に勘違いしてしまう。安室さんから視線を逸らし、やめて、と何度も頭の中で叫んだ。
「ひなたさんが好きなんです」
逸らしていた視線はそのままに、目を見開いた。
聞き間違いではなかった、はず。確かに彼の声で聞こえたその言葉。
「・・・え・・・」
ゆっくりと彼の顔を見上げて。瞳に映るのはいつもの優しい穏やかな笑顔。
「聞こえませんでした?貴女のことが・・・」
「きっ、聞こえました・・・!」
やっぱりからかわれているのか。
本当に情けなくなってくる。
「・・・・ん、ん・・・っ!」
小さく、本当に小さくため息が漏れてしまって。それを見るや否やまた口付けされた。
さっきよりも深く、奥にまで安室さんの舌が入ってきて。
「はっ・・・んぅ・・・!」
そのままさっきのようにベッドへ押し倒される。逃げ出せないこの状況に思考回路も停止してしまった。
静かな部屋に、お互いの唾液が混ざり合う音だけが鳴り響いた。それが何だか恥ずかしくて。
「・・・んっ!んん・・・!」
苦しい、と安室さんの胸板を軽く叩いて訴える。
その動作でやっと安室さんの唇が離れて。
「・・・信じてなさそうだったので」
鼻先が触れるか触れないかの距離でそう言われる。せっかく整った息も再び荒れてしまって。
「ほ・・・本気、なんですか・・・」
「さっきからそう言ってますよ」
困ったような笑顔。困りたいのは私の方だけど。
上がった息と高ぶった気持ちをゆっくりと整え、改めて彼の目を見た。
「私も・・・安室さんが好きです」
ずっと抑えていた気持ち。
言ってはいけないと思っていた。
でも安室さんが、私のことをそう思ってくれているのなら。
この気持ちに蓋をする理由もなくて。
「安室さんが・・・好き・・・っ」
抑えていた涙が一気に溢れた。
安室さんの前で何度泣いただろう。
その度に彼は優しく包んでくれて。
そういうところにも惹かれたんだろうけど。
「僕も・・・好きですよ」
何度も何度も確認するように伝えあって。
強く強く抱き合って。
ふわふわした不思議な気持ちと甘いこの時間に酔いしれてしまいそうだった。