第10章 恋して
「・・・・・・え・・・?」
状況が全く掴めず目を泳がせた。
両手首は安室さんによって固定。目の前には安室さんの顔。倒れているのはベッドの上。
一つずつ自分の状態を把握していった。それでも冷静になれる部分はひとつもなくて。
「あ、安室さん・・・?」
その行動の意味が分からなくて、恐る恐る彼の名前で問う。今の彼の表情は読み取れなかった。
「・・・すみません」
そう言って掴んでいた手を笑顔でパッと離すと、私を元のように座らせた。安室さんの行動の意味が全く分からなくて。
「ひなたさんが可愛くてつい」
そんなことをサラリと言ってしまう人だから。
全て間に受けてはいけないのに。
一々反応を示す自分はからかい甲斐があるのだろうな、と心の中でため息をつく。
「でも、あまり他の男性にそういうことは言わない方が良いですよ」
言う訳ない。
言える訳ない。
さっきだって無意識だったし不可抗力だ。
そう自分の中だけで言い返して。
「安室さんも、あまり色んな女性にそういうこと言わない方が良いと思いますよ・・・」
皮肉も込めて言い放つ。
彼は誰のものでもないのに。勿論、私とはただの上司と部下に近い関係。それ以上でもそれ以下でもないのに。
なんだか無性に悔しくて、苦しくて。
「誰にでも言う訳ではありませんよ」
それもお決まりの言葉なんでしょ、なんて拗ねて。
やっぱり私は醜い。
「ひなたさんだから、ですよ」
分かってます。
それで何人の女性を落としてきたんですか。
「・・・聞いてます?」
聞いてません。
貴方の甘い言葉は偽りと知っているから。
「・・・ひなたさん」
少しだけ怒ったような、諭すような口調で。
それでも黙りを決めた。
諦めたように安室さんが息を吐く。
そう、私は安室さんが思うほどそういう女じゃないんです。
傍にいてほしいと言ったのは自分なのに。勝手に拗ねる醜さを痛いほど感じながらシーツをギュッと握った。
「ひなたさん」
もう一度名前を呼ばれ、今度は両手で顔を包まれながら正面を向けられた。
安室さんの顔はさっきよりも目の前で。
私の顔が熱いこともあるのだろうが、やっぱり安室さんの手は少しだけ冷たくて気持ち良くて。
恥ずかしさから一瞬で溶けてしまいそうだった。