第81章 物狂い※
その会話の数分後には、男の車に乗っていた。
厳密には乗せられているのだが、最終的に乗ると判断したのは私だ。
そう、判断せざるを得なかったのだけど。
『彼の秘密をバラされたくないだろう?』
はったりだとしても、そんな事を言われれば下手に断れなくて。
彼にはそれがあり過ぎる。
それにこの男なら・・・本当に何か知っていそうだったから。
「チェスはできるかい?」
車が発車して間も無く、男からそう問われて。
「・・・できません。ルールを知らないので」
それに対して、なるべく感情が出ないよう淡々と答えることを強く意識した。
「だろうね」
最初から答えは分かっていた口振りに、ならば聞かなければ良いのに、と心の中だけで言い返して。
「昨日はあんなに怖がってたのに、今日は随分と強気なんだね?」
・・・似たようなことをベルモットにも言われた。
私にとってそれは無意識のことだったが、恐らく零が傍にいないと、自然とこうなってしまっているのだろう。
少しでも、一人の時に心配されないように、と。
「彼に心配を掛けたくないから、かい?」
「!」
思わず、男の横顔に目を向けてしまった。
これは明らかな動揺だ。
でも、意外にも早く冷静さは戻ってきてくれて。
「別に・・・彼は関係ありません」
「そうだと良いね」
・・・見透かされている。
零や沖矢さんとは違う、そんな空気を感じる。
見透かしていると言うより、最初から分かっているような。
それがこの上なく気持ち悪くて。
横目で男に視線を向けながら、警戒心だけは無くさないようにした。
「さて、着いたよ」
そうこうしている内に、車は突然どこかの敷地内に止められて。
目の前には建設中の建物。
でもそれは、久しく手付かずの状態になっているようにも見えた。
「良い物をあげるよ」
車を降りるように促され、続けて指で男の方へ来るように指示された。
黙ってそれに従って動くと、男はその建設中の建物へと入っていって。
外見こそそう見えたが、中へ入ってみると部屋はきちんと作られているように感じた。
強く違和感を感じる程に。