第81章 物狂い※
近くのドラッグストアでも良いが、体の動きを取り戻す為にも少し歩こう。
そう思い、いつもとは少し違う小さな道を選んだ。
風が吹き、空気が暖かみを帯びてきているのを感じれば、春が近付いてきていることも感じて。
そういえば、梓さんの話をまだしていなかった。
今日、帰ってきたら伝えなくては。
そんな事を考えながら、歩いている時だった。
「・・・・・・」
・・・気配がする。
何か、嫌な気配が。
背後から、私をつけてきている様な。
気のせいであれば良いのだが、そういう感は良くも悪くも冴えてきてしまっていて。
自然とゆっくり足は止まり、静かに辺りを見回した。
特に変わった様子は無いように見える。
・・・が、確認せずにはいられなくて。
「・・・・・・っ」
数秒後、思い切って後ろを振り返ってみるが、やはりそこにも怪しいと思える姿は無い。
最近は、公安の人の警護も無いはずだ。
それは、バーボンと居るようになって、不都合なことが多くなったから。
それに、感じたのは明らかにそういう雰囲気のものでは無い。
そこに、安心感というものは微塵も感じない。
今いる道は人通りが無い訳ではないが、安全を感じるには少な過ぎる。
安心感を感じる為には、もう少し大きい道を歩くべきだ。
そう考え、数メートル先の角を曲がった時だった。
「やあ、子猫ちゃん!」
「!!」
突然誰かが目の前に現れたと思うと、いきなり声を掛けられて。
驚きのあまり、声も出なかった。
ゆっくりその姿を下から見上げていくと、そこには、やけに笑顔の深いハーフのような顔立ちの男性が立っていて。
・・・この人、どこかで見たことがある気がする。
それも、つい最近。
「・・・覚えていないかい?」
「・・・・・・!」
ゆっくり差し伸べてきた手に思わず距離を取ると、男は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を向けられた。
この目・・・知っている。
笑わないこの目を、私は最近どころか昨日見たじゃないか。