第81章 物狂い※
「・・・零・・・?」
隣に彼の姿は無く、途端に不安だけが蘇るようだった。
重く、何処も彼処も痛い体を引き起こしては、部屋を見回して。
部屋に差し込む光は明るい。
・・・暖かく、明る過ぎる。
何となくだが、察するに時間は昼が近い。
下手をすれば過ぎている可能性だってある。
「・・・・・・?」
小さくため息を漏らしながら、ふとテーブルに目をやった時、小さなメモ用紙を見つけて。
軋む体を引きずりながら、ようやくそれを手に取った。
『体は平気か?冷蔵庫に軽く作ったものを入れているから、良かったら食べてくれ。今日はゆっくりしていろ。夜には戻る。』
・・・彼らしい。
起こしてくれたって良かったのに。
そう思いながら、自分が見知らぬ部屋着を着ていることにようやく気が付いた。
何もかも覚えていない。
覚えているのは、彼と久しぶりに繋がったことだけ。
でも、何故かそれもぼんやりとした記憶になっていて。
不思議な感覚。
そう思いながら、目を覚ます為にお風呂場へと足を運んだ。
ーーー
お風呂を済ませ、メモにあった通り冷蔵庫を開けると、いくつもの保存容器が並べられていて。
「・・・軽く・・・?」
メモにはそうあった気がするが。
どう見ても言葉とは違う、凝ったような見た事のないおかず達が透けて見えている。
やはり、彼らしい。
笑いを漏らしながら、その中から一つを手に取ると、簡単に食事を済ませた。
ただでさえ忙しいのに。
面倒を掛けてばかりだ。
せめて掃除くらいはしておこうと、用具を引っ張り出してはあちこち掃除をして回った。
これくらいしかできないが、できる事しかできないのだから。
できない事に首を突っ込むと、彼に迷惑が掛かる。
それはこの一ヶ月で思い知らされたから。
「・・・あれ?」
台所で掃除をしている時、洗剤が切れていることに気が付いた。
どうせ今日は休みだから。
少しの気分転換を兼ねて、買い物に出る事にした。