第10章 恋して
【※夢主視点】
「では、僕は帰りますね」
そう言って安室さんが玄関へ向かおうとする。
「あ、待っ・・・!」
まだ力の戻らない足で立ち上がろうとして、膝から崩れ落ちそうになった。
それをすかさず安室さんが受け止めてくれて。
「・・・無茶はしないと約束したはずですよ」
さっき沖矢さんにも同じことをしてしまった気がするし、同じようなことを言われた気がする。
でも今ここで彼と離れてしまうともう会えないような気がしてしまって。受け止めてもらった安室さんの服を力いっぱい握った。
「・・・ひなたさん?」
困ったように私の名前を呼ぶ。
離れたくない。そう思って勝手に体が動いてしまった。
いつもより頭の中は冷静なのに。行動は全くの逆で。
「暫く・・・このままじゃ、ダメですか・・・?」
とにかくこの不安を消したくて。それを消せるのは安室さんだけで。
安室さんを困らせたいわけじゃないのに。でも実際困らせたり、迷惑ばかりかけている。
ああ、なんて醜いんだろう。
この気持ちも、私の存在も。
「・・・とりあえず座りましょう」
そう言って再びベッドに座らされる。安室さんも私の隣へ腰掛けた。
心臓が痛い。
安室さんが私の部屋にいて。それどころか隣に座っていて。
安室さんの顔が見れなくてずっと俯いたまま。
「ひなたさん」
優しく名前を呼ばれて、ゆっくり恐る恐る安室さんの顔を見る。彼の表情は悲しそうともとれるような優しい笑顔で。
綺麗な青い瞳に釘付けになった。
ああ、やっぱり私。
「・・・好き、です」
心の声が漏れてしまった。
安室さんの驚いた顔に自分も我に返って血の気が引いた。
「ち、ちち違います・・・!安室さんの・・・っ、め、目が好きという意味で・・・っ!!」
言い訳すればするほどそれは確信的な行動で。再び顔を深く俯かせて両手で塞いだ。
穴があったら入りたいとはこういう時に使うのか、と頭の中で無意味なことをぐるぐる考える。
「・・・僕も好きですよ」
その単語は二度目。何度聞いてもドキッとしてしまう言葉。
そしてそれを聞いた三秒後には、何故か天井を見上げていて。安室さんに両手首を握られ、押し倒されたことに気付いたのはそれから数秒した後だった。