第80章 言って※
つけてと言ったのは自分なのに、いざそれが手首につけられると、途端に不安が増した。
ただそれは、彼からの言葉に対する不安で。
覚悟は・・・良いかと言われると自信が無い。
「れ・・・っ、ひゃ・・・!」
でもそんな不安を、感じる暇すら与えられなかった。
手錠の掛かった両手を頭上に持ち上げられると、繋がれた鎖はフレームへとしまい込まれていって。
手首を引いても、長かった鎖はそこから伸びてくる事は無く。
どうやら中の方で固定されているようだった。
つまり頭上に持ち上げられたこの両手は、手錠によってこれ以上下げることを許されない。
それに気付いた時には既にバスローブの前を開かれ、あっさりとその体を彼の前に晒した。
「・・・ッ、そんなに見ないで・・・」
傷だらけで、綺麗とは言えない。
でもそんな体を隠すことは物理的に不可能な状態。
それをただ静かに見つめてくる彼の視線に耐えられない。
このもどかしさや羞恥が、欲望を掻き乱していって。
「何故?」
指先だけで体を撫でながら問われて。
擽ったいのか感じているのかは自分でも分からないが、体を捩らせては顔を歪めた。
理由なんて聞かなくても分かってるのに。
それでも彼は、私の言葉を要求してくる。
「・・・綺麗じゃ・・・ない、から・・・」
傷のことだけではない。
組織にはベルモットのような綺麗な女性だっている。
女優と比べるなんておこがましいが、それでも彼の周りにいる女性と、つい比べてしまう。
「・・・傷なら、これで隠せば良い」
そう言って彼は所々に残る傷や痣に唇を落としては吸い付いて。
その度に声を漏らしては、いくつも傷の上に赤い痕を残していった。
「それと」
身体中が真っ赤になってしまうのではないかと思うくらいに痕が残って行く中、彼は胸の膨らみに唇を近付けながら切り出して。
「僕はひなたの体と付き合っている訳ではないからな?」
それは十二分に分かっている。
彼の言葉、態度、全てを見れば痛いほどに。