第80章 言って※
「・・・!」
横に並んでいた体は、彼が覆い被さるように動かされて。
見つめてくる彼の瞳は相変わらずの輝きと美しさがあり、褐色の肌と金色の髪がそれを引き立たせている上劣らずで。
それに目を奪われていると、徐ろに顔が近付いてきて。
厳密には、唇が。
途端に心拍数を異常なまでに上げて、心臓を締め付つけた。
「・・・・・・ッ」
それに耐えきれず、思わず顔を逸らして。
「・・・どうした?」
少し困惑したように、彼は私が顔を逸らした方へと覗き込んできたせいで、益々心臓への負担が大きくなった。
「ごめん・・・見ないで・・・」
慌てて両手で顔を塞ぎ、その情けない表情に蓋をして。
恥ずかしい。
苦しいほどに。
彼が好きだという感情が抑えきれない。
どうして今日はこんなにも、落ち着かないのだろう。
「・・・っ、・・・!」
頑張って心を落ち着けようと深呼吸を始めるが、それは一回にも満たなくて。
蓋をした手はあっさりと、いとも簡単に彼の手によって取り払われてしまった。
顔の横辺りにそれぞれベッドに押し付けられると再び、あの目で見つめられて。
「れ・・・」
「僕から目を離すな」
優しいけれど、命令には変わりない声色。
その声と言葉に、欲望は逆撫でされた。
「愛してる」
何かを言う隙なんて与えられなかった。
寧ろ、もう言葉なんて出せなくて。
彼が好きだという事実に潰されそうで。
「・・・っン、んぅ・・・ふ・・・っ」
触れ合った唇は、初めてキスをした時のような感覚だった。
見るもの、触れるもの、聞こえるもの・・・何もかも敏感で、自分の体では無いような感覚さえ覚えた。
キスはこんなにも不思議な感覚に陥るものだっただろうか。
舌が絡む度に鳴り響く音が部屋に響いて。
たまに鳴るリップ音は何故か体を跳ねさせた。
「ひなた、愛してる」
キスの合間に、彼は何度もそう言って。
その言葉だけで十分に達してしまいそうだった。