第80章 言って※
「前からそう言うが、余裕がある時なんてないからな」
「・・・私よりは余っ程、余裕そうだよ」
私の髪を梳かすように彼の指が滑って。
その動作一つ一つに、やけに心臓が反応を示す。
こんなことも、余裕がなければできるはずない。
「今日だって、気が気じゃ無かった」
そう話しながら、彼は額を私の肩へとつけて。
「ひなたを連れて行ったのはきちんと意味があったが、やはり連れて行かなければ良かったとさえ思った」
「・・・・・・」
私の着いて行った意味が何なのかは分からないし、今は知らない方が良いかもしれないが、そう言われてしまうのはほんの少しだけ・・・嬉しいようで、悲しかった。
やはり、彼に迷惑をかけているようで。
でもそれは、自分の不甲斐無さや頼り無さから来るものだと思えば、勝手にそんな悲しさを感じることは違う気もした。
「あの人は・・・情報屋さん・・・?」
「・・・そう思っていて良い」
彼がそう答えるということは、情報屋としての立ち位置だけでないということか。
もしくは、情報屋でも無い・・・か。
「・・・それで、目を見て言ってくれるんじゃなかったのか?」
肩に置いていた額を上げ、顎をクイッと持ち上げられると、自然と目は合わせられた。
その瞬間、僅かに落ち着きを見せていた緊張感は、尋常ではない速さで再び高められて。
以前似たようなことがあった時は・・・自然と言葉が出ていたはずなのに。
どうして今は、こんなにも緊張してしまうのか。
「・・・・・・っ」
心臓が痛い。
息が苦しい。
狂おしい程、体が何かを訴えている。
「零・・・っ」
彼の目を見つめながら名前を呼べば、顎を掴む彼の手がピクリと震えた気がして。
その瞬間、私の中の何かが音を立てて切れた気がした。
「零が、好き・・・、愛してる・・・っ」
・・・一体何に縛られていたんだろう。
こんなにも簡単に出るんじゃないか。
そう思う頃には彼の唇で蓋をされ、溺れるようなキスをされていた。