第80章 言って※

「ひなたは僕の事、どう思っているんだ？」
「どう･･･って･･･」

どうして今更そんな事を聞くのだろう。
言わなくたって、分かってるはずなのに。

「嫌いになったか？」
「なってない･･･！」

そんなこと、なる理由が無い。

「じゃあ、どう思っている？」

再度そう問われ、思わず向けていた視線を再び外すと、彼のシャツを強く握りしめた。

以前もこういうことがあった気がするが、案外改めて言うとなるとかなりの勇気を必要とするもので。

「･･･す、好き･･･」

こういう時はいつも絞り出すような、か細い声。

毎日、会わなくても感じている感情なのに。

言葉に出すのは、どうしてこんなにも難しいのか。

たった、一言なのに。

「聞こえなかった、もう一度」
「す、好きです！！」

半ば、ヤケになってはいたけれど。
固く瞼を閉じながら声を張り上げて、きちんと言ったのに。

「･･･！？」
「目を見て、言ってくれないか」

頬を両手で包まれると、俯く私の顔を引き上げて鼻先が触れるように向き合わされては、そう言われて。

恥ずかしさや驚きから反射的に、頬を包む彼の手に自身の手を重ねた。

今日の彼の手は、お風呂上がりのせいか、いつもより少しだけ温かく感じて。

「れ、零は言わないのに、私だけなんてズル･･･」


「愛してる」


「･･････ッ」

心臓を、直接鷲掴みにされたかと思った。

真っ直ぐに、私の目を見て。

余裕そうだけれど、優しい笑顔で。

言われるのも、言うのも、初めてでは無いのに。

どうしてこんなにも疼くのか。

「ひなたを、誰より愛している」

ああ、ズルい。

その声も、言葉も。
その目も、笑顔も。

全部、全部･･･ズルい。

「零だけいつも余裕そうで･･･ズルい」

思いの強さから思わず、本音が漏れた。

その瞬間に、顔だけは向き合っていたものの、視線だけは下へと落ちていて。