第79章 覚悟は
「これで勝てば良いんだよ」
男は最後の駒をチェス盤に置くと、ソファーに大きく持たれて体を預けて。
その瞬間纏った空気は、痛く、冷たく、一瞬でも隙を作れば飲み込まれてしまいそうなくらい強くそれを感じた。
「・・・すみませんが」
「君はどう思う、子猫ちゃん?」
どこか空気がピリつく中、男はバーボンの声を遮って私に声を掛けてきて。
「・・・え・・・っ」
突然のことに驚いて言葉を詰まらせると、無意識に視線はバーボンへと向いた。
どう思う、と問われても。
私にとやかく言う権利や度胸は無い。
「そろそろ、別の飼い主に乗り換えてみたくないかい?」
「い、いえ・・・」
そう言うのがやっとだった。
言う間も、隣に座るバーボンの袖に縋り、いつしか起きていた震えを最小限に留めるのが精一杯で。
この人は・・・ただの情報屋では無い。
そんな気がした。
「こちらの条件で納得頂けないのであれば、今日は帰らせて頂きます」
そう言うなり彼は私の手を引いて立ち上がると、入ってきた扉の方へと引き返していった。
大丈夫なのか、と彼に手を引かれながら振り返って男の姿を確認して。
そこには変わらず不敵な笑みを浮かべ、微動だにしない姿があった。
「・・・・・・ッ!」
男の姿から目を離せずにいたせいで、突然止まったバーボンに気付かず、そのまま軽くぶつかってしまって。
何事かと前を向き直しバーボンに目をやると、彼は真っ直ぐ前を見据えていた。
その視線を辿るようにドアの方へと視線を動かすと、そこには先程まで居なかったはずの、スーツ姿の別の男性がドアと私達を遮るように立っていて。
この先は通さないと圧力をかけるような目付きで。
「俺は途中放棄が嫌いなんだ。君から持ち出してきた話だしね」
こちらに届くように少しだけ張り上げた声量で、ソファーに座る男・・・恐らく情報屋はそう言った。
それをバーボンは背中で聞き取ると、小さくため息を吐いて。