第79章 覚悟は
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「今日は着いてきて頂けますか」
「・・・はい」
とある地下駐車場に止められた車の中で、いつもとは違う指示を受けた。
このドレスコードとネックレスを付けられた時点で、それは覚悟をしていたことだけど。
車を下りて地上に出ると、彼は暗いどこかの路地裏へと足を進め、それに足早について行った。
・・・あまり、良い空気ではない。
そんなことを思いながら顔を顰めては、バーボンの傍をなるべく離れないように歩いた。
「こちらです」
そう言って立ち止まったのは、地下へと続く階段で。
その先には、コンクリート壁にはミスマッチな、お洒落なドアが取り付けられていた。
手を引かれ、エスコートされながら階段を下りると、彼はゆっくりと降りた先のドアを開けた。
少し高めのドアベルを鳴り響かせると、室内へと足を踏み入れて。
「いらっしゃいませ」
そこには、壁一面に並べられたお酒のボトルの数々、そして数人のお客さんだと思われる人達の姿があった。
「コープスリバイバーを二つ」
彼はカウンターに手を付くとバーテンダー姿の店員に、そう注文をした。
コープスリバイバー・・・確かカクテルの名前だったような。
死者を甦らせる、か。
改めて思うとなんて物騒な名前のカクテルなんだろう。
・・・いや、そんなことより。
彼は車で来ているのに、お酒なんて。
「かしこまりました、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
どういうことなのかとバーボンに尋ねかけた時、何故か注文の品は作られないまま、部屋の奥へと案内をされて。
戸惑いながらも彼の傍をついて歩き、薄暗い店内の奥につけられた黒いカーテンを潜り抜けると、その先には一層暗い通路が続いていた。
「・・・・・・っ」
何だか、嫌な予感がする。
それに、さっきとは比べ物にならないくらい空気が重い。
不安からか、無意識に彼の袖をギュッと握り締めていた。