第79章 覚悟は
『ある程度の覚悟と、臆しない心を持ってきてもらえますか。それと、軽いドレスコードでお願いします』
・・・覚悟と、心か。
そして、ドレスコードの指定まで。
どうやら今日は、探偵の助手としての仕事では無さそうだ。
「分かりました」
『では、また夜に』
用件だけを話し終えると、電話はすぐに切れた。
恐らく今日の夜はバーボンとして動くのだろう。
夜は久しぶりにご飯を作って待っていようと思ったが、今日はそれが叶いそうにないことを考えながら、ポケットにスマホをしまいホールへと戻った。
「安室さんですか?」
「いえ、間違い電話でした」
誤魔化すような笑顔で、梓さんの質問に答えて。
梓さんは私達が付き合っていることを知っている。
けれど、それは安室透との関係で。
彼女を変に巻き込まない為にも、敢えて二人の関係を深くは話をしなかった。
「でも凄いなあ、ひなたさん」
「何がですか?」
大きくため息を吐きながら肩を落とし、机に倒れ込む梓さんを横目に賄いのパスタを口に運んで。
「だって、安室さんですよ?本当に、何が切っ掛けで付き合い始めたんですか?」
相変わらず、梓さんはそういう話が好きだ。
・・・彼女に限らず、私の周りの女の子は少なからずそうで。
「まあ・・・成り行きで・・・」
なるべく笑顔は崩さないまま答えた。
でも確かに、改めて思い出してみると何が切っ掛けで付き合い始めたんだろう。
安室透としても、降谷零としても、今となってはぼんやりしている部分もある。
あながち、成り行きというのは間違っていない気もしてきて。
「そういえば、ひなたさんはお花見行かれます?」
「お花見?」
食べ終えた食器を片付けながら、梓さんがそう切り出してきて。
「商店街や常連さん達で集まって毎年してるんですけど、ひなたさんも良ければ行きましょうよ!」
お花見、か。
確かに最近は暖かい日も増えてきた。
そろそろ春も近い。
ただ、こればかりは私の一存では決められない。
「すみません、また後日返事をさせてもらっていいですか?」
きっと、参加は無理だろうけど。