第78章 監視下
「少しじゃないよ・・・っ、早く洗って・・・!消毒するから・・・!」
彼はどこか傷に慣れ過ぎている気がする。
仕事柄、仕方がないのかもしれないが。
そんな事を考えながら、救急箱を開けて消毒液と絆創膏を取り出した。
「手・・・見せて?」
何も言わないまま手を洗い、私に言われるがまま手を差し出す彼の手を取ると、傷口を確認した。
幸い、深く切った訳では無さそうだが、念の為に消毒液を掛けて絆創膏を巻き付けた。
「・・・多分、これで大丈夫」
人の手当てなんてすることが無いから。
これで良いのか途端に不安になりながら、出した消毒液を元に戻して救急箱の蓋を閉めた。
「ありがとう」
そう一言お礼を告げてくれた彼の表情が、ふと視界に入って。
「・・・・・・?」
なんだろう。
どこか・・・寂しげに見える。
「零・・・?」
そういえば今日、彼がどこで何をしていたのかを知らない。
恐らくではあるが、組織の関係で動かされていたのだとは思うけど。
様子を伺うように、僅かに顔を覗き込みながら呼んでみるが、彼は返事をしないまま残った小さなガラスを箒で履き集めた。
「すまない、今日は早めに休むことにするよ」
「う、うん・・・」
それは構わないけれど。
寧ろ、そうしてほしいけれど。
何かあったのか。
聞きたいのに、何も聞けなくて。
ガラスを片付け終えた彼は早々に奥の部屋へと向かい、私がそこへ戻る頃には既にベッドの上に転がっていた。
晴れない気持ちで、そして自分の手当てはできないまま、静かに救急箱を元の場所へと戻して。
電気を消し、零が転がるベッドへ、そっと腰を下ろした。
「・・・・・・」
珍しく壁の方を向いて転ぶ彼を確認しながら、スッキリしない感情を大きくして。
単純に疲れていただけなのか。
私が、余計なことを言ってしまったのか。
それとも、やっぱり・・・。