第78章 監視下
「!」
お風呂場の方から扉を閉める音がして。
慌てて開けていた押し入れの戸を閉めて、ベッドを背にして座った。
「は、早かったね・・・?」
「そうか?」
まだ上着を纏わず、肩にタオルを掛けて顔だけを覗かせた彼に、何気無く声を掛けて。
不自然、だっただろうか。
自分の言動一つ一つが、その都度気になって仕方がない。
早く話してしまえば楽になれる。
それに、一度はそうしようとした。
だが、改めて行動を起こそうとすると、途端に緊張感が高まって鼓動が早くなり、言葉が出なくなる。
「・・・!?」
迷う理由なんて無い・・・頭では分かっているのに・・・同じ様な考えがぐるぐると頭の中を巡った。
そんな中、突然台所の方から、カシャンッ、と何かが割れるような大きな音がして。
「零・・・!?」
足の痛みを堪えながら立ち上がり、慌てて音のした台所の方へと向かうと、零が床に落ちている何かを拾い集めていた。
「だ、大丈夫・・・? 」
「すまない、コップを割ったんだ。悪いが、救急箱を取ってくれないか?」
救急箱。
たったそれだけの言葉に動揺して、心臓が大きく跳ねた。
「どこに・・・あるの?」
「押し入れの中なんだが、右側の棚に無いか?」
そこはさっき見たような気がするが。
そう思いながらも、言われた通りにもう一度押し入れを開けて。
「・・・ごめん、どの辺りかな?」
「ああ、すまない。最近使ったアイロン台の後ろにあるみたいだ」
台所の方で私の様子を見ながら、そう返事をされた。
言われた通りにアイロン台を退かしてみると、確かに彼の言う通り、そこに救急箱は置いてあった。
それを手に取ると、台所で割れたコップを拾う彼の元へと急いで。
「怪我したの?」
「大した事ない。少し切れただけだ」
そう言った彼の手を見ると、左手の親指から真っ赤な血がポタポタと床に落ちていた。