第78章 監視下
「今じゃなくて構わない」
抱きしめる彼の腕の力が強まって。
まだ、何も言っていないのに。
私がそう言いたいのも、きっと彼はお見通しなんだろう。
「ひなたが僕に伝えるべきだと思った時に、言ってくれ」
全部・・・知っているんだろうか。
まあ、知っていてもおかしくはない。
「・・・うん」
きっと、今までもそうだったんだろう。
私の口から言うのを彼は待っていた。
どれだけの事を、私は彼に黙ってきたか・・・。
その度に彼は・・・どう思っていたんだろう。
ーーー
軽い夕食とお風呂を済ませ、零がお風呂に入っている間、ぼんやりと天井を眺めて。
一緒に入ることも多くなったが、今日はまだ足の傷のことは言えていないから。
なるべく普通通りにしているつもりだけど・・・これももうバレているかもしれない。
そう思えば、彼に正直に話すことへの抵抗も、僅かに薄れた。
「・・・消毒、しないとダメだよなぁ・・・」
今日ついたばかりの傷は平気なフリをしていても、まだ痛む上に生々しい。
同じ包帯を巻くわけにもいかず、適当にハンカチを当て、その上からワンピース型の寝巻きで隠している状態だ。
でも、この家の救急箱がどこにあるか分からない。
まだきちんと話をしていないのに、零にその場所を聞くのも気が引ける。
だが、自分で手当てをするなら彼がいない今の内だ。
そう考え、思い当たる場所を手当り次第に探し始めて。
開けられる戸棚、引き出し、押し入れは全て。
あらゆる場所を、痛む足に顔を顰めながら探した。
「・・・無い・・・」
極端に物の少ないこの家なら、すぐに見つかると思っていた。
しかし、それは想像よりも困難なもので。
更に、少し動くのにも倍近くの時間を要する。
そのせいで、せっかくお風呂に入ったのに嫌に汗が滲んできて。
「・・・・・・っ」
無理に動いたせいで、少し落ち着いていた痛みも増してきた。
早くしないと・・・零が・・・。