第78章 監視下
『ひなた・・・?どうした?』
ああ・・・心配も迷惑も掛けたくなかったんじゃないのか。
なのに。
なのに、どうして。
「零・・・早く、帰ってきて・・・っ」
それとは裏腹な言葉を口にしているんだろう。
『・・・家にいるな?すぐ帰るから、待っていろ』
慌てた様子は無い。
いつもの様に、冷静な彼の声。
電話が切れると、更に涙は溢れ出して。
何かが切れたように、泣きじゃくった。
ーーー
あれからほんの十分程だったと思う。
玄関に僅かな慌ただしさを感じると、数秒後には息を切らした零が奥の部屋に姿を現した。
「ひなた・・・っ」
ベッドに座ってボロボロに泣いている私の前に跪くと、その涙を優しく指で拭ってくれた。
「零・・・っ、れ、い・・・」
「大丈夫だ・・・」
それでも止まることを知らない涙が、頬を伝い零れ落ちる中、彼は優しく腕の中に私の体を包んでくれた。
それが温かくて、優しくて。
微かに聞こえる彼の鼓動が、心を落ち着けるようだった。
「相変わらずというか・・・最近は特に、泣き虫だな」
何度もゆっくりと頭を撫でながら、彼は優しい声色でそう言って。
彼の言う通り、最近は年甲斐も無く泣いている気がする。
「・・・ごめん」
「別に謝ることじゃない」
少し、笑いを含んだ声が更に安心感を呼んで。
その瞬間に、今まで凝り固まっていた考えはゆっくりと解け始めた。
「・・・零、・・・私・・・っ」
彼の服をギュッと握り締めながら、覚悟を決めて。
あれだけジンの事は言わないと決めていたのに。
恐らく沖矢さんの言葉で、その考えは簡単に変わってしまった。
ただ、言わない方が良いのでは、と・・・心のどこかではまだそう思っていて。
言ってしまうと、彼がどう思うか・・・それを知るのがただ怖いだけなのかもしれないが。