第78章 監視下
「本気で言っているのか」
「・・・ッ」
沖矢さんの声なのは間違いが無い。
けれど、それを疑ってしまう程の低い声と口調で。
それはまるで、あの男が・・・赤井秀一が重なるようで。
「僕を怒らせた代償は大きいですよ」
・・・別に怒らせたつもりは無い。
心のどこかでは、そう言い返したけれど。
実際は、いつもと全く違う彼に心底怯えていた。
「今日の事も、彼に黙っているつもりなんでしょう」
否定はできない。
実際、そのつもりだったから。
ただ、肯定の言葉を口にしたくもなかった。
「その選択が正しいのか、もう一度よく考えてみてはいかがですか」
終始どこか威圧的な口調で言われた後、頬を掴んでいた彼の手はゆっくりと離されて。
その後の事は、よく覚えていない。
沖矢さんに事務所まで送ってもらい、着替えて荷物を纏めると、タクシーを拾って零の家近くまで向かった。
そして気付けば、彼の匂いが残るベッドの上で仰向けになっていた。
その間、ずっと上の空で。
何かを考える余裕も、思考力も、体力も、何も残されていなかった。
そのまま、どれだけの時間が経っただろう。
「・・・・・・」
ベッドの上に放り投げられたスマホが突然着信を告げて。
重い体をゆっくり起こし、それを手に取って画面にめをやると、そこには安室透の文字があった。
何の意識も無いまま、無気力で応答ボタンを押すと、静かにスマホを耳につけた。
『ひなた?今どこにいる』
・・・いつも通りの零の声。
優しい、彼の声だ。
今朝も聞いたのに、とても久しぶりに感じるのは何故だろう。
それに対してどれだけの安心感を覚えたことか。
「零・・・」
彼からだと実感するように、小さく名前を口にして。
スマホを持つ手に力が込められて。
「・・・れ、い・・・っ」
もう一度その名前を呼べば、それが合図のように何故だか涙が溢れ出した。
子どものように、でもなるべく声は押し殺して。
静かに・・・泣いた。