第78章 監視下
「思ったより深くはありませんが、よく動く場所なので気を付けてください」
「・・・ありがとうございます」
手当てが終わると、彼は持ってきた物を全て手に持ち直し、早々と部屋を後にしてしまった。
やはり、いつもと様子が違う。
・・・まさか。
「あの、沖矢さん・・・」
「どうされました?」
程なくして戻って来た彼に、恐る恐る声を掛けて。
こんなに彼へ物怖じすることなんて、今まであっただろうか。
それは、彼が・・・。
「・・・怒って、ますか・・・?」
そう見えるからなのか。
「・・・・・・」
尋ねたのに、ただ黙って見下ろされるだけ。
その間が、この上無く恐ろしい。
どうして今日はこんなにも、色んな恐怖を味合わなければならないのか。
「・・・っ、沖矢さ・・・」
「怒ってますよ」
私を見下ろしたまま微動だにしなかった彼が突然動いたと思うと、私を追い込み、圧をかけるように、両肩に触れそうなくらいの場所へとそれぞれ手を置いた。
ギッ、と音を立てて沈んだソファーを感じると、彼の膝が足の傍に置かれていることにも気付いて。
そして言葉通りの声色で、一言だけでそう答えた。
「貴女にも、自分自身にも」
鼻先が触れてしまいそうなくらいの距離。
拒みたいのに、突き放したいのに、文句を言いたいのに。
何一つ、できない。
体は動かず、声も出ない。
鼓動だけが、どんどんと速くなって。
気になる彼の言葉に、理由を問うこともできない。
「もう少し、自分の命について考えて頂けますか」
・・・そんなの、考えてる。
考えている・・・つもりだ。
「怪我だけで済んだ・・・貴女はそう思っているのでしょうね」
それは・・・そうかもしれない。
けど、そんなこと・・・。
「沖矢さんには関係な・・・っ」
目線を落としながら、何とか言葉だけでも突き放そうと口にした言葉は、彼の手によって止められた。
片手で私の両頬を掴むように持ち上げると、無理矢理視線を合わされて。