第78章 監視下
思えば今日、私の前に現れた時から・・・いつものあの余裕そうな笑顔が無かったように思う。
それが・・・怖いと思う理由の一つなんだろうか。
程なくして戻ってきた彼の手には、タオルや救急箱が握られていて。
それをテーブルに置くと、私の横へ屈むように膝をついた。
その後は何も言われないまま、足を浮かされてはタオルを下に敷かれ。
ベルモットに、止血の為かキツめに巻かれた包帯を取って傷口を露わにすると、何かの塗り薬なのか、手に取っては傷口にそれを塗り付けた。
「・・・・・・っ」
疼くような痛みに思わず顔を歪めたが、それを悟られまいと彼とは反対の方向へ顔を背けて。
「ジン、ですか」
「!」
背けていたのも束の間、彼のその言葉で視線は引き戻された。
またカマを掛けられたのか。
一瞬はそう思ったが、彼の真剣に手当てをする姿を見て、そうでは無いと判断できた。
「・・・どうして、そう思ったんですか」
「傷口と、貴女の言葉からですよ」
傷口・・・?
それに、私の言葉・・・?
「傷口を見れば、大体の銃の口径は判断できます。それに、貴女は手当てをベルモットにされたと言っていましたので」
それだけでジンだと?
いや、そもそも・・・。
「私・・・銃で撃たれたなんて、言いました・・・?」
言ってもいないのに、この傷が銃によるもので、しかも銃の口径まで分かるなんて。
つくづく、彼が銃に詳しいであろうスナイパー・・・赤井秀一、つまりFBIの一員だと疑わざるを得ない。
「言われなくても、この火傷のような傷を見れば分かりますよ」
そういう・・・ものなんだろうか。
そもそも、この日本で銃に撃たれるなんて経験をすることは、そう無い。
その経験を、二度する羽目になるなんて思いもしなかったが。
その見る機会が少ないであろう傷を、まるで深く見知った物のように話す彼は、やはりただの大学院生では無いと確信させられる。