第78章 監視下
「着いた・・・」
やっとの思いで事務所を目の前にすると、ようやく心から安心できたような気がした。
けれど、激しい運動をした後のように肩で息をしながら、不安も感じていて。
これでは、夜に零に会えば一発でバレてしまう。
できれば、ジンやベルモットに会ったことは・・・零には黙っておきたい。
隠せばバレた時には怒られるだろうし、自分自身を責めるかもしれない。
それでも、この事は彼に黙っておいた方が良いと思った。
これ以上、余計な迷惑も心配も掛けたくないから。
・・・ジンやベルモットが黙っててくれればの話だが。
「・・・!」
まずは一度体を休めようと、ため息を吐きながら事務所部分のドアに手を掛けた瞬間、突然背後に止まった車のクラクションがそれを阻んだ。
誰かと思いゆっくり振り返ると、そこには見覚えのある赤い車が止まっていて。
「話があります。乗って頂けますか」
挨拶も無い。
ただ窓を開けた先から、手早くそう言われた。
その赤い車の持ち主・・・沖矢昴に。
「・・・忙しいので、お断りします」
今更、突然彼が現れることに驚きなんてしない。
彼はいつだってそんな感じだったから。
それに、これから事務所の監視カメラの書き換えもしなくてはならない。
ベルモットがここに来てしまったせいで、その痕跡を消さなければならなくなった。
外の様子を見ても、もう夕方が近い。
早くしなければ零が帰ってきてしまう。
それ故、彼と話している暇なんてものは無い。
「では、足の怪我の手当てだけでも」
「・・・・・・」
どうして私が怪我をしていると判断したのだろう。
私が歩いていた姿を見たのか。
・・・いや、そうでなくても、この服についた血痕を見れば、怪我をしていることくらい彼なら分かるか。
「ベルモットにしてもらったので結構・・・・・・」
もう一度ため息を吐きつつ、断りの言葉を口にしている最中、しまったと咄嗟に口を手で塞いだ。