第77章 知る由
助手席のドアを閉めた瞬間、車は唐突に発車された。
一応、生きて帰ることはできたんだと実感すると、全身の力は抜け切って。
深い溜め息を大きく吐いた。
「付けてなさい」
来た道を引き返しながらベルモットは私へと何かを差し出して。
それに目をやると、視界に入ったのは来た時に付けていたものと同じアイマスクだった。
「・・・あの場所が特定されると困るんですか」
「無駄なことは知らない方が身の為よ」
アイマスクを受け取りながら尋ねてみるが、その答えが返ってくることは無かった。
あの場を使われたのは恐らく、今回が初めてでは無いだろう。
ノックの疑いの掛かっている零には、そこを知られたくない・・・という事なんだろうか。
・・・何にせよ、今は彼女の言う通り、知らない方が良いのかもしれない。
ーーー
「起きなさい」
「・・・っ」
頬を軽く叩かれ目を覚まされると、車は完全に停車していて。
「さっさと降りてくれるかしら?慣れない運転して疲れてるの」
・・・そうか、あれから私・・・眠ってしまったのか。
というよりは、痛みや疲れから気絶していたという方が正しいかもしれない。
「・・・ありがとうございました」
一言それだけ告げると、彼女は眉間に皺を寄せながら私に視線を向けて。
「何のお礼かしら」
「別に・・・深い意味はありませんよ」
助けてもらったなんて思ってはいない。
けれど、何となく口から出てきたのがその言葉だっただけ。
痛みが強くなったようにも感じる足を引きずりながら車から降りると、早々とドアを閉めて。
振り返ることは無く、事務所の方へと向かって行った。
できれば、彼女と会うのはこれっきりにしたい。
バーボンと関わっている以上、それが難しいことだとは分かっているけれど。
「・・・・・・っ・・・」
少し離れた場所に止められた車から事務所までは、随分長い距離のように感じられた。
零の家で待っているなんて言ってしまったが・・・これはタクシーを使うしかないと考えながら、何とか足を進めた。