第77章 知る由
「・・・ふん、好きにしろ」
ベルモットの言葉に納得したのか、ジンは銃を握ったまま私に背を向けた。
余りにも簡単に退いた事に驚きを隠せず、思わず声が出そうになって。
「但し、妙な真似をすれば・・・分かっているだろうなァ?」
「・・・・・・っ」
振り向きながら向けられた視線に、悪寒と恐怖が全身を駆け巡った。
威圧感どころでは無い。
本当にそれは、人が殺せてしまいそうなものだった。
「ウォッカ、車を出せ」
「了解」
ジンが去り際にそう命令すると、どこからかウォッカが姿を現して。
ずっとあの男も傍にいたんだ・・・気が付かなかったのは、気配が無かったのか、ジンの気配が大き過ぎたのか。
今となってはどっちでも良いけれど。
「・・・ッつ・・・」
ジンの姿が見えなくなると、気が抜けたせいか足に受けた傷が突然強く痛み出して。
冷や汗とは違う汗と、傷口からは血がドッと溢れ出した。
「車に来なさい。多少なら手当てしてあげるわ」
甲高いヒール音と共に近寄ってきたベルモットが、私に手を差し出していて。
何故私にそこまでするのか戸惑い、迷いながらも、差し出された手に自身の手を伸ばした。
「それだけで済んだのは、運が良かったと思いなさい」
手を引き上げられた反動で何とか立ち上がるが、足には上手く力が入らなくて。
痛みのせいでもあるが、殆どは震えによって引き起こされていた。
「行くわよ」
待ってなんてくれない。
待ってとも言わない。
ここはそういう世界だ。
弱いものはただ朽ちるだけ。
バーボンの隣にいる以上、これくらいのことは当たり前だと思わなければ。
ベルモットの言う通り、ジンに会って生きて帰れたことは、運が良かったとしか言いようが無い。
痛みと震えで言うことの聞かない足を引きずりながらも、来た道を引き返してベルモットと共に乗ってきた車へと戻った。