第77章 知る由
「貴女が関われば、多少は冷静さを欠いてくれるかもしれないわね」
・・・そうであれば嬉しいけれど、そうであってはほしくない。
そんな矛盾する気持ちが、体を蝕んでいった。
「バーボンはそんな人ではありませんよ」
あくまでも平常を装って。
自分に言い聞かせるように、静かに返した。
「ま、あの男に関わった自分を嘆くことね」
「・・・・・・」
嘆くものか。
寧ろ、彼と会って命が伸びようなものだ。
怒りのような何とも言えない気持ちがフツフツと湧き上がり、思わず拳を握った。
「行くわよ」
彼女が車を降りると、それに続いて私も車を降りた。
それを確認すると、ベルモットは自身の首元に手をやり、上へと引き上げて化けの皮を剥がした。
「・・・っ」
綺麗なプラチナブロンドの髪、整った顔立ち、それらを改めて目の当たりにすると、女優をやっているということが嘘ではないと実感できる。
ただ、依頼者の立花さんから組織のベルモットへと一瞬にして姿を変える瞬間は、私の平常心に僅かにヒビを入れた。
「こっちよ」
まだ空気の冷たいこの季節に、この山奥は中々に体に厳しい。
それでも、気が立っているせいか、その寒さは最低限に感じられた。
ベルモットと共に薄暗くなっていく小道を抜けると、廃れた小屋とも呼べないような建物が見えてきて。
「日本の犬は感が良いから、こういうとこでもないと追い掛けて来そうでしょ?」
・・・零のことを言っているのか。
彼が日本の犬・・・つまり警察官、ノックなのだろうと私にカマをかけているつもりか。
変に否定も肯定もしたくはない。
ならば私にできるのは、黙っておくだけ。
ここから先は、なるべくそれを通す事を車内で決心してきた。
小さくベルモットに視線だけ向けると、あとは静かに彼女の後ろを着いて行った。