第77章 知る由
「・・・分かりました。準備をするので、二分だけ待ってもらえますか」
「いいわ。ただし、妙な真似は・・・」
「しませんよ」
したって、無駄なのは重々承知だ。
するのは、彼女が持って来た資料や取ったメモを処分する事だ。
「あら、良いのかしら?」
「本人からのお話ではありませんので」
そんな資料を残しておいても仕方が無い。
紙類を纏めて持つと、半ば時間を無駄にしてしまった苛立ちと共に、シュレッダーへとかけた。
「因みに、本当の依頼者へは毛利探偵事務所をお勧めしておいたわ。貴女がここへ戻って来られるか分からない事だし」
・・・それは、そうだ。
ジンに会いに行くということは、生きて帰れる保証は無い。
そういう人間だということだけは、痛い程分かっていて。
「・・・・・・」
恐怖はある。
けれど、意外と冷静な自分でいるのは何故だろうか。
口を付けられなかったコーヒーを流しに捨てると、カップを洗って食器棚にしまい込んだ。
「・・・行きましょうか」
「随分と素直なのね」
私がそう声を掛けて出入口へと向かおうとすると、私に向けていた銃を下げて。
徐ろにワンピースの裾を持ち上げると、太ももに隠れていたガンホルダーへと、それを収めた。
「騒いだって、どうにもなりませんから」
そう答えてドアノブへと手をかけると、気乗りのしない外へと足を踏み出した。
「近くの駐車場に車を止めてます。案内しますね」
「・・・・・・」
外に出ると、先程までの雰囲気が嘘のように、ベルモットは依頼者の立花さんへと戻っていて。
そこにベルモットだった面影は、一切無い。
「どうかされました?」
「いえ・・・何でもないです。行きましょう」
白々しく小首を傾げられると、戸惑いを超えてため息が出る。
それくらいには、自分の中で落ち着きがきちんと居座ってくれていて。
それは彼女がベルモットだから・・・そして、これは本来の姿ではないから、というのもあるのだろうか。