第77章 知る由
「どうぞ」
「ありがとうございます」
カップを彼女の前に置くと、その向かいに私も静かに腰を下ろした。
「あの、午後から別の場所でと伺っていましたが・・・ご都合悪かったですか?」
「すみません。私、うっかりしていて・・・午後から用事があるのに気付いて、慌ててここへ来ました」
成程・・・それで。
にしては落ち着いているように見えるのは、彼女の雰囲気がそうさせるのだろうか。
「すみません、ご迷惑でしたか・・・?」
「とんでもないです、大丈夫ですよ。今日は他に依頼者の方もいませんので」
そう言うと、彼女は安堵の表情を見せて。
それもまた綺麗で、同じ女性としては羨ましい限りだった。
「では早速で申し訳ないですが、お話聞かせて頂けますか?」
「はい・・・」
それから約一時間、零に言われた通りに、浮気調査してほしいという彼女の旦那さんの話を聞いて。
難しいことは何も無く、聞けば確かに怪しいと思ってしまうような旦那さんの行動に、胸を痛めながらメモを取った。
特にこれ以上私がすることは無い。
聞いた話を、零に伝えるだけ。
彼からも、そう指示を受けていたから。
それだけの、はずだった。
「すみません、御手洗を借りても良いですか?」
「どうぞ。この奥にありますので」
あとは透さんから連絡がされることを伝え、彼女を見送るだけ。
そう考えながら軽く時間を確認しつつ、午後からは一人で外出しても良かったのだろうかと今更思っては、彼女から預かった写真などをまとめた。
「あの・・・すみません」
「どうかされました?」
御手洗に行ったはずの彼女が、申し訳無さそうに顔を出して。
そこへ声を掛けながら駆け寄ると、彼女はトイレの方を指差しながら言葉を続けた。
「ペーパーがきれているみたいで・・・」
「す、すみません・・・!すぐに補充します」
御手洗も一応掃除はした。
ペーパーもその時、確認はしたと思っていたが・・・。
そう思い返しながらも、予備のペーパーを持ってはトイレに向かって。