第77章 知る由
あの後、二人で朝食を済ませると、零は早めに事務所を出てしまった。
依頼人と会うまでは、事務所の掃除と資料の整理を任されていて。
私が知らない所でも、彼は探偵としての依頼を僅かながら受けているようだった。
それでも二人でいる時間を作ってくれていることに、喜びも、申し訳無さも感じていて。
そんな中、一人事務所に降りると早速掃除を始めた。
「ふー・・・」
一通り掃除を終えたのは、午前十時頃。
依頼人と会うのは午後二時頃に喫茶コロンボで、と聞いている。
浮気の素行調査らしいが・・・時間のかかりそうな案件でも受けることに不安も感じていて。
きちんと休んでいるのか。
疲れを残していないのか。
またあの時のように・・・倒れたりしないか。
何かに取り憑かれたように動く彼だから、せめて二人でいる時くらいは・・・。
「・・・!」
ソファーに座って、そんな事をぼんやり考えていると、突然事務所のドアをノックする音が響いて。
誰だろうかと素早く立ち上がっては、早足にドアへと向かった。
「はい・・・」
恐る恐る覗き込むようにドアを開くと、そこには綺麗な長い黒髪の女性が立っていて。
長く白い手足に黒いワンピース、立ち姿までが見惚れるように綺麗だった。
「すみません、依頼をしていた立花です」
「え・・・あっ、立花さん・・・!」
そういえば、今日会う予定の依頼者はそんな名前だったような。
それに気付くと同時に、少ししかドアを開けずに応対していたことにも気付くと、慌ててそのドアを大きく開いた。
「ど、どうぞ・・・!」
「失礼します」
とりあえず中に案内しなくてはと、予想外のことに慌てながらも彼女を室内へと案内した。
ソファーへ座るように促すと、彼女は小さく頭を下げて腰を下ろした。
その動作一つ一つが、とても女性的で美しくて。
この女性を奥さんに持ちながら、浮気をする男性の気が知れない。
知りたくもないけれど。
そう勝手に腹を立てながら、来客用のカップにコーヒーを注いだ。