第77章 知る由
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「ひなた、起きろ」
「・・・んー・・・」
零の声が聞こえる。
そしてどこか、コーヒーの香りが鼻をくすぐる。
「起きないと、貯めていたお仕置をするぞ」
貯めていた、とは何なのか。
意外にも、聞こえてきた言葉を冷静に脳内で考えることはできた。
まだ、起きているとは言えなかったけれど。
「んぅ、ン・・・ッ」
突然、耳に感じた違和感。
それに体を震わせると、重たかった瞼はようやく開かれた。
「・・・っひゃ・・・!・・・零・・・っ!」
「起きないひなたが悪い」
唇だけで挟むように含まれた耳が、熱を帯びて。
それは一気に顔まで広がると、全身までが熱くなっていった。
その耳を抑えながら勢いで飛び起きると、思わず彼から距離を取って。
「おはよう、ひなた」
「お、おはよう・・・」
楽しそうな、悪戯っ子のような笑顔を見せながら挨拶をされて。
戸惑いながらも挨拶を交わすと、ようやく目も体も段々と覚めてきた。
「起きてすぐで悪いが、今日は事務所の仕事を任されてくれないか。依頼人に会って、話を聞いてくれるだけで良い」
彼が、先に起きて作ってくれていた朝食を運びながらそう話して。
依頼人の対応なんて、いつぶりだろう。
そもそも、そんなに対応したこともないけれど。
私一人に応対を任せるという事は、難しい依頼ではないのだろうか。
「零は・・・?」
「急用で行く場所ができた。夜には戻るから、好きな所で待っていてくれ」
それはつまり、彼のセーフハウスでも構わないということで。
そしてポアロと言わない辺り、今日は安室透の仕事ではないんだな、とも思って。
「じゃあ、零の家で待ってる」
あの家は、彼を存分に感じられるから好きだ。
それ故、抑え切れない喜びが顔に出てしまう。
元々、隠すつもりもないが。
「分かった、早めに戻るようにする」
そう言って落とされた口付けは甘くて。
その後に飲んだコーヒーは、一段と苦く感じた。