第9章 仮の姿
「兄が近付くなと言っていたあの車と・・・最後に貰ったあの手紙に何か関係があるような気がして・・・」
その情報が彼女の耳に入ってしまっていることが本当に悔やまれた。彼女を思ってした彼の行動だったのだろうが、今はそれが彼女の首を絞めていて。
「車を見た時には・・・体が勝手に動いてました・・・」
「・・・それについては僕も調べています。だから・・・」
彼女の為なら嘘なんて平気でつける。
それは彼女を守る為のものだから。
その思いが少しでも伝われば、と右手を彼女の左頬にゆっくり添える。
「これ以上、このことには関わらないと約束してください」
彼女の目だけをしっかり見てそう伝える。
それはお願いではなく半分命令で。
「・・・約束できないと言ったら・・・?」
貴女ならそういうと思ってました、と胸内で笑って。
「どこかに閉じ込めておく他ないですね」
これは嘘でも何でもなく、自分の中にある歪んだ感情。
それを聞いた彼女は少しだけ黙った。これで諦めてくれるとばかり思って。
「・・・その調査、私にもさせてください」
「・・・聞いてましたよね?」
少し驚いた。そこまでする理由がどこにあるのか。
半分呆れる部分はあったが彼女の真剣な目を見て意思は固いことを悟り。
「その上でのお願いです」
暫くの間、無言で見つめ合う。
ここで折れた方が負けだということは分かっていた。
それでも彼女と自分が重なる部分があって。
折れる訳にはいかなかったのに。
頬に添えていた手をゆっくり離し、小さくため息をつく。
「・・・分かりました」
結局、彼女の決意に負けてしまって。ただ、それでも彼女を守る僕の指名は終わっていない。
「ほ、ほんとですか・・・?」
「ただし条件があります。今後、ポアロに仕事で向かう時以外は逐一僕に行動をメールで知らせてください」
これ以上の護衛は彼女やコナンくんにバレかねない。そう思って彼女に報告させる道を選んだ。
勿論、それ以上のこともするつもりだが。
「分かりました、約束します」
この言葉に対して何も疑問を持たないことに驚いて。ある程度この件に踏み込んでいることが伺えた。