第9章 仮の姿
あのポルシェに、盗聴器と位置を検知する発信機の様なものが仕掛けられているということか。
それが奴らにバレたら・・・
彼女は・・・。
血の気が引いた。
彼女を見ると、どこか諦めた様子で。
「・・・話があります」
そう言って口を塞いでいた手を取り、乱暴に彼女の腕を引っ張った。イヤホンとスマホはポケットにしまい込み、連れて行く先は勿論、僕の車で。
とにかく静かなところへ。
そう思って、無心で車を走らせた。どこへ、なんて決めてなかった。
それでも彼女に注意は向けていて。途中カバンの中に手を入れようとしたところを咄嗟に掴む。
ビクッと跳ねる体。その反応にどこからともなく罪悪感が生まれてきて。
「妙な真似はしないでください」
本当はそんなことを言いたいんじゃない。
それでも冷静さを保つ為には降谷零の部分を隠しきれなくて。
暫く車を走らせて、止めた場所は山奥。
「どうしてこんなことを?」
そう問いかけると彼女は暫くの間考えて。
「・・・兄が、言っていたポルシェ・・・」
消え入るような声で。体は震えていて。
やはり彼の言葉からの行動か。
「裏通りで見つけて・・・兄と関係があるのかと思って・・・仕掛けました・・・」
「お兄さんは交通事故で亡くなったと報告したハズですが」
彼女は組織について何か知っている。本能がそう判断した。
「・・・まだ自分の中で・・・兄のことに疑問が残っていて・・・」
つまり。
「それは僕の調査結果に対しての不服、と取ってよろしいですか?」
「ちが・・・っ!」
言いたいこととは裏腹な言葉ばかり零れてくる。
こういう時はどうしたら良かったのだろう。何故か彼女の前では上手く取り繕えない時がある。
否定の言葉を口にしようとした彼女が、僕の顔を見て驚いて。・・・酷い顔してるんだろうな。
「・・・すみません、不安にさせてしまいましたよね」
やっと少しだけ自分の本心に素直になれて。
それを聞いた彼女は今にも泣きそうな顔で。
僕のことは信じている、と伝えられた。