第76章 聞いて※
「止めなくて・・・良い」
煽っていると言えば、そう。
でも、限りなくそれはただの本音で。
彼がそう思う、そうする人物は私だけなんだと、実感したい。
そんな欲望が、醜いまでに溢れてくる。
「では、お言葉に甘えさせてもらおうか」
その言葉と共に、再び零の冷たい手が服の下を這って背筋を伸ばしていった。
下着のホックを器用に片手で外されると、服と一緒に取り払われて。
露わにされた、肩の傷に口付けを落とされた。
彼には罪悪感の塊かもしれないが、私にとっては一生残る彼からのキスマークのようなものだ。
それについてお互いが何かを言うことは少なくなったが、気にしていない訳ではない。
気にする訳は、互いに違うけれど。
「・・・っん・・・」
彼の指が胸の突起に触れれば、途端に体はビクッと震えて。
簡単に、体はその気になってしまう。
「零も・・・脱いで・・・」
向かい合っているのに、上だけと言えど私だけ纏っていないのは流石に恥ずかしい。
「ひなたが恥ずかしがるなら、もう暫くこのままでいさせてもらおうか」
「・・・っ」
さっきの我儘なようなものとは違う。
これは確実に、彼なりの意地悪だ。
「は、恥ずかしがってない・・・っ」
彼の服を掴みながら、無意味な虚勢を張ってみせて。
さっきまでの大人しかった彼はどこにいったのか。
「じゃあ、ひなたが脱がせてくれ」
不敵な笑みを浮かべながら、命令ともお願いとも言えない言葉を口にして。
少し前のあの時なら、何の躊躇も無く脱がす事ができたんだろうと思えば、本当にあの時の自分はおかしかったんだと再認識した。
「目、瞑ってて・・・」
見られながらするのは、何故か羞恥を感じるから。
せめても、と彼の瞼に手を当てて。
「・・・開けないでね」
彼が瞼を閉じているのを確認しながら手をゆっくり離すと、ボタンで閉じられている彼の服に手を移した。