第76章 聞いて※
「ひゃ・・・っ!」
唇が離れた後、突然背中に冷たい感覚を受けて、思わず短い悲鳴と共に彼の膝の上に座ったまま背筋を伸ばした。
「大丈夫か・・・?」
「ご、ごめん・・・冷たくてびっくりしただけ・・・」
背中に触れたのは、彼の手だということは頭では分かっていたのに。
その手が、何故かいつも冷たいことも知っていたのに。
どこか過剰と言えるくらい反応を示してしまったことに、少し罪悪感のようなものを感じた。
「すまない、少し温めてくる」
「いいの・・・!」
そう言って彼が、膝の上に座る私を抱き抱えて移動させようとした所を、咄嗟に止めて。
「このままが、良い・・・」
彼の手を取り、自らそれを自分の頬へと当てた。
いつもの冷たい手。
大きくて男らしく、でも繊細で綺麗な長い指。
私の、大好きな手だ。
「そんな顔、誰にも見せるなよ」
彼がそう言う時の自分の表情にピンと来なくて。
いつもどんな表情なのかと尋ね損ねる。
尋ねたところで、写真に収められたり、鏡を向けられたりするだけなんだろうけど。
「・・・っ」
そんな事をぼんやり考える最中、左頬に当てていた彼の右手の親指が、ゆっくり唇を右から左へ、左から右へと辿っていって。
唇に、彼の指が触れているだけ。
たったそれだけなのに、体の疼きは逆撫でされ、自然と息が上がってしまうようだった。
その反射のせいか、僅かに唇が開いて隙間ができたところを、彼の親指が侵入してきて。
それが舌に触れると、自然と絡ませるように動かしていた。
「ん、ふぁ・・・んう・・・」
ただひたすらに、彼の指に唾液と舌を絡ませて。
冷たかったそれが、段々と口内の体温と同じくらいになってきた頃、指はゆっくりと私の口から引き離された。
「そんな顔されると、止まらなくなる」
言いながら彼は、先程まで私の口内に入っていた彼の指を、自身の唇に押し付けては口角を上げて一舐めしてみせた。
それはこちらの台詞だ、という言葉を飲み込むと同時に、溢れ出る疼きでどうにかなってしまいそうだった。