第76章 聞いて※
「れ・・・零・・・」
理由なんて、確認したところで教えてはくれないんだろう。
そう思いながら、これで良いのかと確認するように、ゆっくり彼の名前を口にした。
それでも表情を変えない彼に疑問の視線を向けると、再び彼の顔は耳元へと近付いてきて。
「・・・もう一度」
「っ・・・!」
囁くように、彼の吐息と共にその言葉が耳を擽った。
「わ、分かったから・・・とりあえずそこから離れ・・・、ンっ・・・!」
距離を取るように求めるが、それは最中に彼の舌によって止められた。
まるで獣のようにひと舐めされた耳は、ゾクッという刺激を背筋に走らせると共に、何度でも甘い声を引き出してきて。
「零・・・っ!」
「もう少し可愛い声で呼んでくれないか」
僅かに上げた顔から、横目で視線を向ける彼に怒った口調で名前を口にすれば、そう冷静に返されてしまって。
段々と、我儘から意地悪になってきているような気もする。
・・・いや、最初からそうだったのかもしれないが。
「呼ぶから・・・っ、だから少し離れて・・・!」
とりあえずそうしてもらえないと、緊張や過敏な体のせいで何もできない。
言いながら彼の胸板を押し上げてみるものの、それは殆ど意味を成さなかった。
「・・・?」
再度出した要望ではあったが、それは中々通らなくて。
それがどうしてなのかと、少しの間閉じていた瞼を開いては、彼の方へと視線だけを向けた。
「零・・・?」
交わると思っていた視線だったが、見えたのは彼の横顔で。
その目は悲しげに伏せられ、床へと向けられていた。
「どうしたの・・・」
「どうしたんだろうな」
零らしくない答え。
その答えと彼の雰囲気に、上がってしまっていた心拍や呼吸は徐々に落ち着きを取り戻していった。