第76章 聞いて※
「っひぁ・・・ッ!!」
何の前触れも無く、突然柔らかい何かが下から上へとゆっくり首筋を這い、思わず悲鳴に似た声を漏らして。
それが彼の舌だとわかるのに、時間は要しなかった。
「零・・・っ!」
何をしているのかと名前を呼んで静止を求めるが、埋まっている彼の顔がそれ以上上がることは無く、舌は首筋を通って更に上へと登っていった。
「待っ・・・ン、ぁ・・・!」
彼の舌は耳に沿うように這わされ、その快楽にビクビクと体を震わせながら零の服を強く握った。
耳を口に含まれたり舐められたりする度に、クチュクチュと鼓膜に響く音が何度経験しても弱くて。
腰に直接響くような、そんな快楽。
そこに吐息がかかれば、体は勝手にその気になってしまうのを彼はよく知っている。
「れ、ぃ・・・っあ、やぁ・・・!」
何も言わない。
ただ、ひたすらに耳だけを集中的に攻めてくる。
舐め方や、吸い付く場所。
それらを時々変えながら。
「・・・っンん、ふ・・・ぁあ・・・ッ」
息は乱れる一方で、体もガクガクと震え始めて。
目には自然と涙が滲んで溢れそうになった。
「零・・・っ、れ、ぃ・・・!」
数日前を思い出すような、そんな気さえした。
何も言ってこない彼が少し怖くも感じて。
でも、あの時と確実に違うのは、彼が降谷零だということ。
その事実が、不思議と僅かな恐怖を安心感に変えていった。
「っは、ぁ・・・はあ・・・ッ」
擽ったさと快楽の狭間に揺れながらゆっくりと時間は流れ、ようやく彼の顔が耳元が離れると、自然と互いの視線が交わった。
まるで激しい運動をした後のような呼吸のまま彼を見つめると、彼は一瞬悲しげな目をしたように感じて。
「・・・もう一度、呼んでくれないか」
「え・・・?」
「名前」
その聞き返しは、何を、という意味では無かったのだけど。
理由を尋ねたのは、きっと彼も察しているはず。
けど、彼は敢えてそれを答えようとしなかった。