第75章 貴方が
「・・・・・・」
僅かな唸り声を出しながら再び考え込んでいると、暫くして強い視線を感じる事に気がついた。
「・・・どうか・・・した?」
怒り・・・とは少し違うような。
どこか複雑な表情をしながら私を見つめていた彼に、首を傾げて。
「隣に居て、こんなにも気にされなかったのは初めてだと思ってな」
僅かに瞼を伏せた彼は、どこか・・・。
「す、拗ねてるの・・・?」
そんな風に見えた。
「悪いか」
特にそれを隠す様子も無く短くそう返されると、何故かこちらの方が恥ずかしくなって。
見つめてくる彼から思わず顔と同時に視線を逸らせた。
「駄目だ」
「!?」
彼の冷たい手が素早く私の両頬を掴むと、無理矢理零と向き合うように動かされた。
「二人の時は、僕だけを見ていて欲しい」
子犬の様にも狼の様にも見える瞳で真っ直ぐ私だけを見つめ、そんな言葉を使われれば動揺しないはずがない。
「れ、零・・・?」
彼がそんな我儘のような事を言うのは珍しい。
恐らくその感情の中には、沖矢さんに対する嫉妬も含まれているんだろうが。
「大丈夫だよ、零しか見てないから」
そう、彼しか見ていない。
見えているものは彼だけなんだから。
「・・・・・・」
「・・・零?」
何の反応も返って来ず、ただただ見つめられるだけで段々と不安が大きくなってきた。
やっぱり、少しは怒っているのだろうか。
いつも細かに沖矢さんや赤井秀一の話を聞かれるのに、今日は聞けないから?
「れ、い・・・っわ、ぁ・・・!」
もう一度、彼の名前を呼んで感情を読み取ろうとするが、その瞬間に突然体を倒され冷たい床に体を押し付けられた。
その上から彼が覆いかぶさり、顔は私の肩辺りへと埋められていて。
感じる零の香りが鼻をくすぐり、安心と同時に心拍数を上げていく。
「零・・・?」
暫く経っても動きが無い事に再び不安を覚え、名前を呼ぶと同時に彼の背中へと手を這わせた。