第75章 貴方が
「それはこっちの台詞だ。・・・何かあったのか?」
ずっと上の空の私を不審に思ってか、夕食後の片付けを終えた彼は、机に頬杖をついて考え込む私の横に座り、そう尋ねてきた。
「・・・何でもないよ」
笑顔でそう答えるが、彼はやはりどこか不服そうで。
今日、沖矢さんと話した事は聞かない。
そう約束して向かった。
何度も心配の声を掛けてくる彼に、自分の身は自分で守れるからと念押しをして。
互いに知らなくても良い事は沢山ある。
零も私に隠している事の一つや二つあるだろうと尋ねたら、今と同じ様な表情を浮かべていた。
嘘は吐きたくない。
だったら最初から秘密な事は秘密だと伝えておく方が良い。
それが二人で出した答えで。
「ねえ、零」
「どうした?」
そういえば、零なら・・・知っているかもしれない。
「工藤有希子さんとベルモットが友人だって知ってた?」
「どこで聞いてきたんだ、そんな事」
やっぱり、知ってるんだ。
「ちょっとね。何がきっかけだった、とかまでは知らないよね・・・?」
あの二人がどういう接点があるのか全く分からない。
せめてそこから辿る事ができれば・・・。
「本当にそういう事には弱いんだな」
「?」
そういう事、とは。
「ベルモットはアメリカの大女優だ。工藤有希子さんも元女優だろう」
「!?」
ベルモットが、女優?
そんな馬鹿な、だって彼女は組織の・・・。
「言いたい事は分かるが、知らなくても良い事もある」
悪い笑みを浮かべながら言う彼に、口を尖らせて眉間に皺を寄せた。
まさかこんなところで言葉のブーメランを食らうとは思っていなくて。
「まあ、女優友達ってところだな」
・・・成程、とりあえずは納得ができた。
でも、彼女達が友達だからと言って何なのか。
ベルモットと工藤有希子さんとの間に、その他の共通点があるのだろうか。
私の中の小さな脳みそは、もう既に使い倒されてパンクしそうだった。