第75章 貴方が
「もう回りくどい話は、やめてください」
この際、あの時の彼が誰だったかなんてどうでも良くなってきた。
今目の前にいる彼が、沖矢昴なのか赤井秀一なのか。
それさえ分かれば。
「では最後にヒントを」
「・・・?」
そう言っては掴んでいた手や体を離すと、彼はソファーに座り直して。
それを目で追いながら、私も上体をゆっくり起こした。
「ベルモットと工藤有希子さんは、昔からのご友人だそうですよ」
「!」
・・・ベルモットと有希子さんが・・・友人・・・?
ヒント以前に、疑問ばかりが生まれる衝撃的過ぎた事実に耳を疑った。
「それを踏まえて、また考えて来てください」
彼は最後にそう言うと、急に半ば追い出すような形で私を玄関へと誘導した。
突然の彼の行動に動揺しながら、何も言えないまま流されるように工藤邸を後にしてしまって。
「・・・どういう、こと・・・」
閉じられた玄関の扉を振り返りながら見つめては、そうポツリと呟いた。
何故急に追い出されたのかも、最後のヒントが何だったのかも、全く意味が分からない。
唯一分かったのは。
「・・・自分が赤井秀一だって、認めた・・・?」
ヒントなんて物を出した時点で、そういう事では無いのか。
それとも、このヒントは自分が赤井秀一では無いという、証明のヒントなのか。
いずれにせよ、考えるのは事務所に帰ってからだ。
ーーー
「・・・・・・・・・」
あの後、事務所に帰って夜まで考えた。
けれど、私にはそういう推理めいた事はどうにも苦手で。
夕食を食べ終えても尚、消えない謎に苦戦しては顔を顰めていた。
「ひなた?」
「・・・え?・・・あ、どしたの・・・?」
この日は零が早く事務所へと帰ってきてくれた。
暫くポアロの出勤が続く為ここからの方が良いらしく、私もそれに合わせて事務所に居る事にしていて。