第75章 貴方が
「・・・ッ!?」
あと少しで変声機が付けられている辺り。
そう思って沖矢さんの首元を凝視していると、その手を急に捕まれ、勢いよく体ごと引かれたと思うと視界はいつの間にか反転していて。
「無防備が過ぎますよ」
気づけば、彼の座っていたソファーに寝転ぶ形で体が押し付けられている。
そこを逃げられぬよう、素早く上に被さっている彼を見上げれば、崩れぬ笑顔を向けられて。
「警戒していてほしいんですか?」
「そうですね、僕以外の男には」
そこに赤井秀一は含まれているのだろうか。
それとも、これは赤井秀一の言葉として受け取って良いのだろうか。
というより、今この状況で一番警戒すべきなのは彼自身なのだけど。
「他の男性にも、こんなに無防備なんですか」
「まさか」
言いながら、掴まれている彼の手を振り解こうとするが、流石に力では勝てずビクともしない。
「無防備なのは、透さんにだけですよ」
力に勝てなければ、それなりの事をするまで。
言い終わるや否や、彼の目を離さないまま、自身の膝を男性特有の急所目掛けて繰り出した。
「・・・恐ろしいことをされますね」
「お褒め頂き光栄です」
案の定、その足は寸前の所で彼の手によって止められた。
正しく言えば、止められるのを待っていた。
彼の両手が塞がったのを確認すると、掴まれていない方の手で再度素早くハイネックに手を掛け、今度は勢いよくそれを下へと剥いだ。
そこにはやはり、怪しげな機械・・・あの変声機が付けられていて。
「・・・これ、外したら赤井秀一の声になったりするんじゃないですか」
「さあ、どうでしょうか」
ここまできても、しらを切るつもりか。
「あの時も僕は付けていませんでしたよ」
あれは・・・別のトリックがあったに違い無い。
そもそも、あの時の沖矢昴は赤井秀一で無かった可能性が高いのだから。
相変わらず、私に分からせたいのか分からせたくないのか、ハッキリしない彼の態度に苛立ちが湧いてきた。