第75章 貴方が
「・・・工藤優作さんも、変装だった・・・とか」
流石に無理があるだろうか。
そもそも、工藤優作に変装する人物がいない。
無くなってきた自信の中、チラリと沖矢さんに視線を向けると、この上無く楽しそうにする笑顔の彼が視界に入って。
「・・・楽しんでます?」
「ええ、とても」
相変わらず分からない。
こういう言動も引っ括めて、赤井秀一らしいのに。
あと一歩、証明まで至らないのが悔しい。
「大変、惜しいところまでは来ていますよ」
「・・・え」
これは、助言と取って良いのだろうか。
もしそうなら、彼は赤井秀一だと認めているようなものだが。
「仮に赤井秀一や工藤優作氏が変装だったとして、それは誰が行ったのですか?」
それも疑問だ。
まさか怪盗キッドに頼んだわけではあるまいし。
・・・というより、結局認めようとしていないじゃないか。
呆れの眼差しを向けながら彼を見ていると、ふとあの事に気が付いた。
「・・・どうかされましたか?」
ゆっくり立ち上がると、向かいに座る彼の側へと移動して、立ったまま見下ろした。
「そのハイネック、下げて頂けませんか」
今まで何度もその存在は見てきた。
あの時の夜、その存在が無いにも関わらず、沖矢昴の声がしていた事も覚えている。
でも、今それを・・・変声機付けていて、外したとしたら。
ここで赤井秀一の声がすれば、それは完璧な真実と言えるのではないだろうか。
・・・否、あの時の夜の謎が解けてこそ、完璧と言えるか。
「どうぞ、お好きに」
そう言って彼は余裕そうに紅茶の入ったカップに口を付けた。
自分で下げる気は無いということ、か。
「・・・失礼します」
彼がこちらに向き直ったのを確認すると、そのハイネックに手を伸ばして。
あの時、零がその手を掛けたように。
ゆっくりと、掛けた指を下げていった。