第75章 貴方が
数日前、この事は一度コナンくんに電話で尋ねていて。
彼もハッキリと答えはくれなかったが、それこそが確証を得る理由となった。
ハッキリ答えられないということは、そうである可能性が僅かでもある。
その僅かな可能性は、黒だと言っているようなものだったから。
その時コナンくんからは、もし沖矢昴の正体がただの大学院生では無いと分かっても、零には黙っていてほしいと頼まれた。
・・・私も、できれば零には明かしたくないと・・・思うから。
その条件は二つ返事で飲んだ。
「では、あの時の事はどう説明致しますか?」
「・・・零がここへ尋ねて来た時、ですか?」
「ええ」
そう、彼が赤井秀一だという仮説を立証できない一番の理由はそこだった。
まだ私が、降谷零の存在を知らない頃。
彼が安室透としてここへやって来て、沖矢昴が赤井秀一では無いかと話しに来た。
あの時、確実に沖矢昴は私達の目の前に居た。
けれど、零は赤井秀一と通話をしている。
その姿を公安の人達も見ていた。
赤井秀一が変装して沖矢昴として私達と居たのならば、あの時の赤井秀一は一体誰だったのか。
恐らくは彼をよく知るFBI・・・とか・・・。
「・・・!」
・・・違う。
赤井秀一は本物だったんだ。
何も彼が変装する必要は無い。
居たじゃないか、あの時わざわざ私に姿を見せた人物が。
「・・・工藤、優作」
ポツリと名前を呟けば、沖矢さんは手の甲に顔を乗せて、私のその後の言葉を待った。
「あの時の沖矢さんは、工藤優作さんだった」
そうすれば、あの時の沖矢昴に感じた数々の違和感に説明がつく。
そう自信満々に答えたはずだったのに。
「工藤優作氏は、マカデミー賞の授賞式に出席していたはずですが」
「・・・っ」
呆気なく、そう突き返されてしまった。
そうだ、あの時生中継でずっと彼の様子は放送されていたじゃないか。
我ながら拙くも推理を働かせたと思ったのに、一気に振り出しまで戻されてしまった。