第75章 貴方が
「・・・黙ってるの何だか気持ち悪いから吐いちゃうけど、沖矢さんも・・・来たよ」
言わなくて良いことかもしれない。
けど、もう何か隠し持っている事が辛かったから。
「コナンくんと、だろう?」
その問いに、思わず彼の方を見て。
カップに口を付ける冷静な彼の横顔に、少し目を丸くした。
「どうして・・・」
「いつ組織の人間が来るか分からないからな。公安の人間を病院に張り付かせていた」
・・・そう、か。
冷静に考えれば確かに、私が更に危険な立場だと知った上で、零が何もしないはずがないか。
「一応、何をしに来たのか聞いておこうか」
「・・・観覧車で落としたスマホを渡しに来たの。赤井さんから預かったって言ってたけど」
私がそう話せば、彼は少し考え込むような仕草をして。
それに対して小首を傾げながら疑問符を頭に浮かべれば、彼は何故か不敵に笑ってみせた。
「また、スマホに何かされたのかな・・・?」
「いや、それは無いだろう」
そう言ってまたカップに口を付ければ、余裕のある笑みを崩さないまま、それを机に置いた。
「どうして・・・?」
「沖矢昴で接触してきたからだ」
「?」
益々分からない。
何故、沖矢昴さんが接触されたから大丈夫なのか。
そもそも、沖矢昴で、という言い方も気になる。
でも、彼はそれ以上答えを教えてはくれなかった。
ーーー
あれから一週間程経って。
体もかなり動くようになってきたのを見計らい、博士の家に謝罪と挨拶をしに向かった。
零は仕事で居なかった為、何度も断ったが、風見さんに博士宅まで送ってもらって。
「すみません、お忙しいのにありがとうございました」
「いえ、お気になさらず」
お礼を告げて車を降りると、風見さんはいつもの表情を崩さないまま颯爽と車で走り去っていった。
普段から笑わない人なんだろうか。
何となくそんな事を気にしながら、阿笠邸のインターホンを、そっと鳴らした。