第75章 貴方が
「ひなたの聞きたい話はこれくらいで良いか?」
何度も降ってきたキスの後、彼がそう確認をしてきて。
・・・そう、なるのだろうか。
立て続けに色々あり過ぎて、結局何を聞きたかったのかもよく覚えていない。
でも、一番大きな疑問や不安に納得したかどうかはさておき、説明はされたから。
「・・・うん」
返事と共に小さく首を動かした。
「では、僕の番だ」
その合図が、妙に怖くて。
それはきっと、聞かれる事に何となく察しがついているから。
「いつから赤井秀一と居たんだ」
・・・案の定、彼の事か。
そう心の中で納得をしつつ、早まる鼓動を抑えようと小さく深呼吸をして。
今更、躊躇している場合ではない。
そう思って重い唇を動かした。
キュラソーのスマホを博士と解析していたこと、そのメールを見て咄嗟に沖矢昴に助けを求めたこと、その場に赤井秀一が居合わせて組織の話を聞いていたこと・・・。
それらを話す間、彼は一度も口を挟まなかった。
手短に、零に会うまでのことを話終えると、彼は深くため息をついた。
それに罪悪感のような、負い目のような、何か落ち着かない感情が湧き出てきて。
落とした視線はそのままに、着ている服をグッと強く掴んだ。
「・・・本当に、大人しくできないんだな」
てっきり、怒ると思っていた。
けれど、彼から聞こえてきたのは呆れつつも優しさを感じる柔らかい声で。
同時に頭を撫でられれば、鼻がツンと痛んで、目から何かが溢れてきそうだった。
「だって・・・零が・・・っ」
今思い出しても怖い。
一歩間違えれば・・・赤井さんがいなければ・・・博士のメールが一足遅ければ。
本当に彼は、ジンの手によって消されていたかもしれない。
そう思えば思う程・・・。
「泣き虫なのも、治らないな」
涙が溢れて止まらなかった。
彼が困った笑顔を浮かべながら優しく手で拭って。
それが落ち着いたのは、数十分経ってからだった。