第75章 貴方が
「じゃあ・・・昨日のあれは、誰を思ってたの・・・?」
だって、あれは私じゃ・・・。
「ひなた以外、誰がいるんだ」
・・・嘘、そんなの・・・嘘。
「でも私・・・あんな風に言われるようなこと・・・」
「だからそれは・・・」
そこまで言いかけて、彼の言葉が止まった。
その沈黙が、更に不安を煽って。
ただ、それは彼が次に見せた表情で呆気なく払拭された。
「・・・いつ、そういう風になっても良い様にと、頭の中で考えていたんだ。・・・まさか口に出しているなんて思わなかった」
目を合わせず、僅かに頬を赤く染める彼を見れば、それが嘘では無いと思えた。
と同時に、これから彼がバーボンの時は、ああいう立ち位置でいないといけない事を、思い知らされた様な気もして。
「夢で・・・見ていると勘違いしていた。怖がらせたのは本当に悪かった」
「それは大丈夫・・・だけど・・・」
そういう事なら、どちらにせよ、あそこに私が居たのは運が良かったということだろうか。
別の人が・・・バーボンの前に現れていたら。
「言っておくが、ひなたじゃなかったら、ああはなっていないからな」
変わらず、心を読むのが早い。
どうしてそこまで、的確に人の考えを読み解くのか。
「・・・そんなの、分からないよ」
「信用してないのか」
そういう訳じゃない。
けど、していないから不安になっているんじゃないのか。
考えれば考えるほど、自分でも分からなくなってくる。
「まあ、信じるかどうかはひなたに任せるさ」
・・・ズルい。
そんなの、ズルいよ。
「もう・・・あんな風にならないように、ちゃんと休んで・・・」
今の私には、それ以上言えない。
結局、彼を信じる事しかできないのだから。
「大丈夫だ。今日しっかり充電させてもらった・・・いや、もう少しさせてもらうから」
そう言った彼の顔はいつの間にか目の前に来ていて。
それに気付いた時には、何度目かの唇を奪われていた。